2008年6月9日

農業について学ぶ 農業は間違いなくビジネスである。

スクーリングパッド農業学部第2回/第3回のまとめです。

・講師 (株)生産者連合デコポン 代表 井尻さん

 デコポンは、有機栽培もしくは特別栽培の農産物のみを扱い、自然食品店・生協・oisix等の小売りルートに乗せる生産者連合です。

 
http://www.decopon.co.jp/

 従来の日本の農業では、「せっかく苦労してよいものをつくっても農協に他のものと同じ値段で買われてしまう」という大きな問題点があり、これが農家の高付加価値商品をつくろうというモチベーションを下げてきたそうです。

 そこで、高付加価値のものをきちんとつくり、その価値をきちんと理解するルートにのみ販売し、自分たちが生産したものの価値を高く維持する、というやり方をとっているのがデコポンです。

 これにより、農家も消費者も余計な中間搾取を強いられることなく、品質がきちんと担保された農作物を流通させることが可能になります。

 ・いかにつくるかではなく、いかに売るかを考える必要がある
 ・伸びている農家は独自の販売ルートを持っている

 という風に、生産者が自らの販売ルートを確保することの重要性を強調されていました。

 むやみに生産コストを抑えるのではなく、きちんと付加価値の高いものをつくり、その小売値をコントロールすることで最終的な利益率をあげる、というのは、まさにビジネスの考え方だと思います。

 現在、井尻さんの方では日本よりもさらに高い価値づけを行う海外に向けて輸出も行っているとのことで、日本の農産物のポテンシャルについて考えさせられました。

 「日本の農業に携わる人の90%以上は、もう農業に未来はないと思っている。だからそこにビジネスチャンスがある。」

 この言葉は、まるで強気のITベンチャー企業の社長が使う言葉のように聞こえます。

 会社をつくる時のファンドを集める際に、その対価を野菜で支払うなど、ユニークなアイデアとビジネスマインドにあふれた有能な「経営者」だと感じました。

 日本の農業は、農地法の問題、農協の問題など、問題がたくさんありますが、こういう力が農業の次の姿をつくっていくのだろうと感じました。


・講師 阿蘇の有機栽培の米をつくられている吉良さん
 
 吉良さんは南阿蘇で、有機栽培の「おあしす米」というお米をつくられて、独自の直販ルートで売られている生産者です。

 
http://www.aso.ne.jp/~oasys/

 元々は既存の流通ルートで販売していたものの、疑念を抱いて直販ルートに切り替えられたそうです。

 産直を始める前は、「みんなに感謝される職業という実感」がなかった農家も、直販ルートでお客さんの声を直接聞き、年に数回お米とセットで色々なプレゼントをお客さんに送ってあげるなどのコミュニケーションをとることで、だんだんと実感が出てきたそうです。

 吉良さんのやられていることも、ビジネスマインドに溢れています。

 有機JAS認証をとるためには、機材の洗浄や農薬散布エリアからの距離条件など、厳しい条件をクリアすることが必要で、必然的に認証を得るための高いコストが必要になります。

 しかし、消費者と直接やり取りをして販売をすれば、このような認証を得るためのコストが必要なくなります。

 大規模流通から退くことで、中間搾取を避け、さらに安全を保証するためのコストもなくなり、純粋に高品質なものを消費者に届けることができる。

 もちろん、このような形態が成り立つためには、消費者の方も情報を入手し、処理し、生産者について評価を下すという非常に高い消費リテラシーが必要になります。

 もっとも、吉良さんはまず知り合いの家庭にお米を配ることから始めたということなので、そんな小難しいことを考えなくても、お米の味が美味しくて、作り手の思いがきちんと伝わったのでしょう。

 「美味しい」という言葉は、単純に味覚のことを言うのではないということを、改めて考えさせられました。

 しかし、吉良さんの「結局無農薬でやりたがる農家は少数でしかない。やっぱり大変なコストがかかる」という言葉も、同時に胸に残りました。

 それでも、「消費者の期待に応えるものを真摯につくった生産者が評価される」ということを信じて、そのようなフレームづくりを進めていきたいものです。


・講師 アサヒビール 御影さん

 御影さんは山東省農業プロジェクトを手がけられて、中国の山東省に「循環利用ができる土壌/風力発電による省エネ/生産管理をデータで行えるIT活用」という特徴を持った農場をつくられたとのこと。

 日本にいてもニュースなどで耳にしますが、中国ではやはり農産物の汚染を心配する富裕層が多く、そこでは高価格・高品質でも充分にチャンスがある市場が存在するそうです。

 中国の市場、流通、労働力の確保の仕方など、非常に面白い話がたくさん聞けましたが、中でも面白かったのは、これが中国側の依頼で起きたプロジェクトだということです。

 中国では農産物の国内需要がどんどん高まっていますが、農家の生産性は低いままで、政府も長期的な視点での危機感を抱いているそうです。

 そういう状況の中で、この農場のように日本の農業技術が中国の農業の発展に貢献するというのは、日本の農業が海外での競争力を持ちうるというテストケースになるでしょう。

 一方では、日本では農地法の問題(農業をやるには特別な認可が必要)で同じことができなかったということが、日本の農業に暗い影を落としているのではないかと思います。

 御影さんがおっしゃった「企業だったら、将来に向けて計画をつくる時に、絶対にマイナス成長のことなんか考えない。日本の農業は、減らすとかやめるとか、マイナスの方向を向き始めたところから問題が始まった気がする」という言葉が印象的でした。

 他の工業製品と同じように、日本の農産物の生産技術もやはり時代とともに大きく進化し、規模の大小を考えなければ、充分国際競争力を持っていると思われます。

 これを今後どうしていくのか、まさにいま農業にとって大きなピンチ=チャンスが来ていると感じました。

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